大判例

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大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)22号 決定

破産者

株式会社サン商事破産管財人

抗告人

芝康司

相手方

神鋼商事株式会社

右代表者

鈴木紹男

右代理人

松田道夫

外三名

主文

原決定を取消す。

相手方の本件債権差押命令の申立を却下する。

本件手続費用は第一、二審を通じ相手方の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙(一)のとおりであり、これに対する相手方の反駁は、別紙(二)のとおりである。

二(一)  記録によると、相手方は昭和五五年一二月三日大阪地方裁判所に対し動産売買の先取特権による物上代位により抗告人が第三債務者株式会社鴻池組に対して有する原決定添付差押債権目録記載の債権(以下本件債権という)の差押を申請し、同裁判所は同年一二月一〇日本件債権差押命令を発し、右命令は同年一二月一一白に第三債務者株式会社鴻池組に、同年一二月一二日に債務者である抗告人にそれぞれ送達されたこと、本件債権差押命令に先立ち相手方は破産前の株式会社サン商事を債務者として株式会社サン商事が第三債務者株式会社鴻池組に対して有する本件債権について大阪地方裁判所に対し債権仮差押決定を申請し、同裁判所昭和五五年(ヨ)第二八四五号債権仮差押事件として係属したが、同裁判所は昭和五五年七月三日右申請を認容し債権仮差押決定をなし(第三債務者に同日債務者に同月四日送達)たこと、株式会社サン商事は昭和五五年七月八日午前一一時大阪地方裁判所において破産宣告を受け、抗告人が破産管財人に選任されたこと、がそれぞれ認められる。

(二)  ところで本件債権差押命令は動産売買の先取特権による物上代位権の行使として債権者たる相手方から債務者たる抗告人に対し、抗告人の第三債務者株式会社鴻池組に対する債権を差押えるというものであり、その時期は前記債権仮差押に遡るものであるところ、抗告人は、本件債権差押命令による被差押債権は前記の債権仮差押決定に先立つ昭和五五年六月二六日に株式会社サン商事が申請外栄信商事こと吉村政治に債権譲渡をなし、その譲渡通知は昭和五五年六月二六日に第三債務者株式会社鴻池組に到達していたものであるから、右の債権仮差押決定は効力を生じなかつたものであり、その後昭和五五年七月八日に株式会社サン商事が破産宣告を受けたことにより、破産宣告後になされた本件債権差押命令は先取特権による物上代位権が存在しないのにかかわらずなされたものであるとして本件執行抗告に及んだものである。

このように本件執行抗告の理由とするところは、先取特権による物上代位権の不存在という実体上の事由によるもので判旨ある。そこでかかる先取特権による物上代位権の行使による債権差押命令に対する実体上の事由に基づく不服申立方法について検討するに、民事執行法はその一九三条一項において債権及びその他の財産権についての担保権の実行につきその要件を定めるとともに、同条二項で同法一四五条五項を準用することにより担保権実行による債権差押命令に対して執行抗告をすることができる旨を定めて執行処分の早期解決を図つているものと解せられる。もつとも同法一九三条二項が同法一八二条をも準用しているところから、実体上の事由による不服申立は執行異議の方法によるべきものと解されないではないが、右一八二条を準用している趣旨は差押命令に対する実体上の事由に基づく執行異議を認めるものではなく、執行抗告の理由として実体上の事由を主張しうる趣旨に読みかえるべきものである。これを要するに、民事執行法一九三条二項において同法一四五条五項の外同法一八二条を準用しているのは、執行抗告は本来手続上の瑕疵を理由とすべき不服申立方法であるが、債権その他の財産権に対する担保権の実行としての差押命令に対する執行抗告においては、その理由として実体上の事由を主張できる趣旨を明らかにしたものと解すべきである。

そこで本件についてこれをみるのに、抗告人提出にかかる株式会社サン商事の株式会社鴻池組に対する昭和五五年六月二五日付債権譲渡通知書、大阪東郵便局作成の郵便配達証明書、株式会社サン商事の吉村政治宛の公証人の確定日附のある昭和五五年六月二五日付債務確認ならびに債権譲渡証書、抗告人及び吉村政治作成の昭和五五年七月三〇日付和解契約書、吉村政治の株式会社鴻池組宛の公証人の確定日附のある昭和五五年七月三〇日付「債権譲渡通知」と題する書面によれば、株式会社サン商事は昭和五五年六月二五日に申請外吉村政治に本件債権の債権譲渡をなし、その譲渡通知は同月二六日に第三債務者株式会社鴻池組に到達していること、サン商事株式会社が破産宣告の決定を受けた後、破産管財人たる抗告人と吉村政治との間に本件債権についての右の債権譲渡契約が否認権行使に該当する行為であつたことを確認のうえ、吉村政治が昭和五五年七月三〇日に本件債権を抗告人に譲渡し、その旨を右同日第三債務者たる株式会社鴻池組に通知したこと、を認めることができる。

右事実によれば、相手方の前記債権仮差押決定に先立つて株式会社サン商事が申請外吉村政治に本件債権について債権譲渡をなし、右債権譲渡は第三者たる相手方に対抗しうるものであることが明らかであり、(これに対し相手方は、申請外吉村政治がいわゆる整理屋と称されるものであつて、株式会社サン商事と吉村政治間の債権譲渡も真実譲渡行為がないにもかかわらず破産会社に介入するため、もしくは債権者らを詐害するためになされた無効のものである旨を主張するが、右の債権譲渡が通謀虚偽表示等により無効である、との事実はこれを認めるに足りる資料はなんら存しないので、相手方の右主張は採用し難い。)相手方のなした前記の債権仮差押決定は被差押債権が存在しないものとして無効というべきである。しかして昭和五五年七月八日株式会社サン商事に対し破産宣告がなされたのであるから、相手方の抗告人に対する原決定添付別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の売掛代金債権は破産手続により弁済を受けるべき破産債権であつて、相手方主張の動産売買の先取特権は存在しないものであるから、本件債権差押命令は効力を生じないものというべきである。

三してみると、相手方の申立にかかる本件債権差押命令は、動産売買の先取特権による物上代位権が不存在であるから、相手方の申立を認容した原決定は取消を免れず、相手方の本件債権差押命令の申立はこれを却下することとし、本件手続費用は第一、二審を通じ相手方の負担とし、主文のとおり決定する。

(今富滋 藤野岩雄 亀岡幹雄)

別紙(一)

〔抗告の趣旨〕

原裁判を取消す

債権者の本件申請を却下する

申請費用は債権者の負担とする

との裁判を求める。

〔抗告の理由〕

一、株式会社サン商事は、昭和五五年七月八日午前一一時御庁において破産宣告を受け、弁護士芝康司が破産管財人に選任された。

二、債権者は大阪地方裁判所昭和五五年(ヨ)第二八四五号債権仮差押命令事件において昭和五五年七月三日付にて株式会社サン商事が第三債務者に対して有する売買代金債権の仮差押命令を得た。しかし、その時はすでに上記サン商事は上記債権を申請外吉村政治に譲渡し、その譲渡通知は昭和五五年六月二六日第三債務者に到達していた。従つて、上記仮差押命令は実効を得なかつた。

三、債権者はこのたび債務者に対し本差押命令を得たが、債権譲渡が先行し、かつ上記のとおり仮差押も実効を得ずして、同年七月八日すでに破産宣告があるのであるから、物上代位権を行使することはもはや許されない(大民連判大12.4.7民集二巻二〇九頁、大決昭5.9.23民集九巻九一八頁)。なお、同年七月三〇日債務者は上記債権を吉村政治から譲受け、その旨の通知もその頃第三債務者に到達済である。

別紙(二)

一、債務者は債権者の昭和五五年七月三日付の仮差押命令をもつて実効無きものとしているが右仮差押命令は何ら瑕疵なきものであり、本件仮差押命令により債権者は有効に本件物上代位権を行使しうる。

即ち、破産者サン商事は債権者の仮差押命令前に本件第三債務者に対して有する売買代金債権を申請外吉村政治に譲渡したと称するが、申請外吉村政治は所謂「整理屋」と称されるものであつて、債務者の主張する譲渡も、真実その譲渡行為は無いにも拘らず、破産会社に介入するため、もしくは債権者らを詐害するために、なされたものにすぎない。而して、本件破産宣告後、債務者が直ちに吉村政治に対し前記譲渡行為の無効なる旨を主張した結果、吉村政治は債務者に対し、前記譲渡行為が否認権行使に該当する行為であつたことを確認し、原状回復措置として譲受けたと称する本件債権を全額無償にて債務者のもとに回復しているのである。

二、一方債権者は破産者につき破産宣告のあつた日(七月八日)以前に既に仮差押をなし(七月三日)、本件債権に対する特定性、優先性を確保していたのでありその後、一二月三日に先取特権に基く物上代位権の行使として本件債権差押えの申立をなしたものであつて本件債権仮差押は全く有効なものであること論を俟たない。

三、なお、債務者が抗告理由書において掲げる判例は、いずれも本件事案とはその事実を全く異にするもののみならず、いずれも第三者が転付命令を受けた事案に関するものであつて、本件とは、その前提事実を異にし、引用する判例として適当でないものであることを付言しておく。

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